おはようございます、satoです。
前回に引き続き『原始ピタゴラス数』をテーマに、4人が自由にあれこれする話を書いていきたいと思います。
ところで、前回の話から、途中で気になるところがいくつかある(数学に詳しい人だと特に)かと思いますが、その一部は話が進むと使ったり、修正したりすることもあるので、そのまま見てもらえると嬉しいです。そこもライブ感ということで。
2つの数の差が8となる原始ピタゴラス数
D「おい、差が
A「えっ、ホント!?」
ディーの声を聞いた3人が彼の方に向かいます。
A「どれどれ…」
を かつ
を満たす自然数とする。このとき、
D「このことから
さっき、真理がしたみたいに、
を自然数として とおく。すると
D「こうなるんだ。あと、さっきやったとき
かつ より *** QuickLaTeX cannot compile formula: \begin{eqnarray*}m'^2-4-4m'&>&0\\(m'-2)^2-4&>&0\\(m'-2)^2&>&4 </blockquote> D「だから、$m'-2$が$3$以上のときに$m$は$n$より大きくなるんだ。だから、$m'=5$を代入したみたら…」 A「$m=20,n=21$で、$20^2+21^2=841$だね」 D「$841$は$29$の2乗で、3つの最大公約数は$1$だから互いに素、だからこれは原始ピタゴラス数だ!」 X「…確かに、これは今まで出てこなかったやつだな。だが、残念ながらこれは''2つの数の差の最小が$8$''になっていない」 A「ホントだ。最初の2つの差が$1$だ」 D「うわ、マジか…見落としてたぜ」 がっくり落ち込むディー。 M「でも、証明としてはほぼ正解ね。あとは、$m$と$n$の差が$8$より大きい、という条件を確かめればいいわ」 <blockquote> $n-m>8$より$$m'^2-4-4m'>8$$変形して$$(m'-2)^2>12$$ </blockquote> M「こうなるから、$m'$は$6$以上ならいいわね。あとは、$(m,n,n+8)$が互いに素である条件を確かめましょう」 <blockquote> $n$と$n+8$が互いに素になるためには$n$が奇数である必要がある。よって、$n=m'^2-4$より$m'$も奇数である。このとき、$m'-2,m'+2$が奇数かつ$m'$と互いに素であるので、$m=4m'$と$n=m'^2-4=(m'-2)(m'+2)$は互いに素である。以上より、$m'$が奇数ならば$(4m',m'^2-4,m'^2+4)$が互いに素である。 </blockquote> M「最後は$(m,n,n+8)=(4m',m'^2-4,m'^2+4)$となるから、$(m,n,n+8)$が互いに素ということを示したことになるわね」 D「''$m'$が奇数なら$m'-2,m'+2$と互いに素になる''って本当なのかよ?」 M「そこは、差が$2$のときに示すべきだったわね…。このように証明できるわ」 <blockquote> $a,b$を自然数として$m'=da,m'+2=db$とおくと、$$2=(m'+2)-m'=d(b-a)$$となるので、$d$は$2$の約数である。さらに$m'$は奇数であることから、$d=1$が成り立つ。よって、$m'$と$m'+2$は互いに素である。 </blockquote> M「このようにして示せるわね。$m'-2$と$m'$も同様ね」 X「$m'$を$m'-2$に変えればいいだけだな」 D「$n$と$n+1$が互いに素であることを示すのと似ているな」 X「一般に、次のようなことが示せる」 <blockquote> $m$が$p$の倍数でないとする。このとき、$a,b$を自然数として$m=da,m+p=db$とおくと、$$p=(m'+p)-m'=d(b-a)$$となるので、$d$は$p$の約数である。さらに$m$は$p$の倍数でないから、$d=1$が成り立つ。よって、$m$と$m+p$は互いに素である。 </blockquote> X「もう少し言うと、$m$が$q$と互いに素な自然数ならば、$m,m+q$は互いに素になる」 D「そこまで示せるんだな…」 X「証明の仕方はさっきのとあまり変わらない」 M「そういうわけで、$m'$が$6$以上の奇数の時に、$(4m',m'^2-4,m'^2+4)$は原始ピタゴラス数になるわね」 D「$m'=7$とすると、$(28,45,53)$だな」 <blockquote> $$28^2+45^2=784+2025=2809=53^2$$ </blockquote> D「…確かにピタゴラスの定理も成り立つな。それにしても、この計算大変だぜ!」 <h2 id="i-1">2つの数の差が9となる原始ピタゴラス数</h2> D「そういや、さっきからアキが何も言ってない気がするが…」 と、ディーがアキのことを探すと、アキはノートに計算をしていました。 D「って、計算してんのかよ!」 A「あ、ごめん…どうしても次が気になって」 と笑いながら返すアキ。 A「あ、でも、チョット待って!もしかしたら差が$9$のときもうまくいくかも!黒板にやってみるね!」 <blockquote> $m,n$を$m<n$かつ$$m^2+n^2=(n+9)^2$$を満たす自然数とする。このとき、\begin{eqnarray*}m^2=(n+9)^2-n^2=9(2n+9)\end{eqnarray*} *** Error message: Unicode character 「 (U+300C) leading text: D「 Unicode character だ (U+3060) leading text: D「だ Unicode character か (U+304B) leading text: D「だか Unicode character ら (U+3089) leading text: D「だから Unicode character 、 (U+3001) leading text: D「だから、 Missing } inserted. leading text: D「だから、$ Unicode character が (U+304C) leading text: D「だから、$m'-2$が Unicode character 以 (U+4EE5) leading text: D「だから、$m'-2$が$3$以 Unicode character 上 (U+4E0A) leading text: D「だから、$m'-2$が$3$以上 Unicode character の (U+306E) leading text: D「だから、$m'-2$が$3$以上の Unicode character と (U+3068) leading text: D「だから、$m'-2$が$3$以上のと Unicode character き (U+304D)
A「
を自然数として とおく。すると
A「
かつ より、
A「
が と互いに素であるならば、 と が互いに素である。
よって、から 、すなわち も と互いに素である。 なので…
A「…ここまではできたけど、この後が難しいかも」
M「どういうところで詰まっているのかしら?」
A「今考えたのは
M「少し整理しましょうか。
最初の主張は数正が話していたものよね?」
A「うん、これ便利そうだなって思って使ったの」
M「私たちが考えたいのは『
A「そうそう」
M「それなら、アキの証明の流れから、次の命題が推測されるわ」
が と互いに素ならば は原始ピタゴラス数
M「一方で、この逆も考えられるわね」
は原始ピタゴラス数ならば は と互いに素
M「今私達が考えたい問題に対する答えはどちらかしら?」
A「最初のほうかな?」
M「ええ。アキが言ったように今知りたいのは
“
A「ん~…でも、さっきの差が
M「…確かに、そうね。これだと逆のことをやっているわ。
これは私のミスね」
が と互いに素であるとき、 と は互いに素である。
このとき、なので、 も互いに素である。
M「こうするのが正しいわね」
A「ふんふん、じゃあ、
M「
A「チョット待って、考えてみる!」
そう言って、アキはしばし考えます。
A「…もし
M「でも、アキが言っていることは正しいわ。
そもそも、
A「
M「今
だから、
A「そういうことか!…あれ、それじゃあなんで逆をやったの?
M「そもそも、私が知りたかったのは
A「あ、それで最初に
M「そこで
A「そこがもやもやしてたところかも!
最初にヒントなしだと分からないから、一旦逆を考えた、ってことだよね?」
M「ええ。
ただ、実際には、逆が正しいからと言って元の命題が成り立つとは限らないわ。
あくまで、問題を解くための一つのヒントね」
Aを仮定してBが成り立つからと言って、BならばAが成り立つとは限らない。
A「今は大丈夫なの?」
M「
M「だから、
A「ん~、今のところもう少し説明してほしいかな…」
M「それなら、さっきの証明をもう少し深く見てみましょう」
を自然数として とおくと、
となるので、は の約数である。
M「まず、この証明の中で出てきた
A「
M「そして、
本当は
A「うんうん」
M「今の話から、
A「…」
M「たとえば、
そうすると、
A「2つの
そうしたら
M「そう、矛盾するわ。だから、
同様に
もしそうなるとしたら、
A「…そっか、
と、アキがちょっと不安そうに真理を見ながら話しました。
M「大丈夫、合ってるわよ。
A「そっか、
M「ええ。
A「うん、真理ちゃんが考えたかったことが分かった気がする!」
M「…できれば、私のことは真理と呼んでほしい…まぁいいわ。
続きを考えましょう」
が と互いに素であるならば、 と が互いに素である。
よって、から 、すなわち も と互いに素である。 なので、 と も互いに素になる。
また、より 、すなわち は奇数になる。
以上より、が 以上の と互いに素な奇数のとき、 は原始ピタゴラス数となる。
A「たとえば、
まとめと発展:ペル方程式との関係
X「…ふむ、今までの証明を見ていると、こんな予想ができるな」
\begin{itemize}
\item{} が奇数の 乗と の奇数乗の積のとき、差の最小が となる原始ピタゴラス数が無数に存在する。
\end{itemize}
D「そうなのか?」
X「ポイントは証明の次の部分だ」
X「この後、原始ピタゴラス数が存在した時は
M「ただ、さっきのディーのときみたいに、
X「それは気になっていた。実際、どうなる?」
M「このまま考えるのは難しそうだから、原始ピタゴラス数の公式を使いましょうか」
A「そんなのあるの?」
M「原始ピタゴラス数は次のようにして得られるわ」
が互いに素、かつ で片方が奇数、もう片方が偶数とする。
このとき、は原始ピタゴラス数になる。
M「ここで、最初の2つの差がどうなるのかを計算すると…」
M「となるわね。つまり」
となる自然数 が存在するとき、 は差の最小が となる原始ピタゴラス数となる可能性がある。
D「なんで
M「さっきの原始ピタゴラス数の表示だと大小関係の条件がないのよ。そして、
A「なるほど…」
M「もう一つ、”差の最小が
とすると、
M「となって、
A「
M「そう、このような場合があるからあくまで”可能性がある”という表現にしたのよ。ちなみに、
とすると、
M「そして、この場合、
D「
M「これは確かに差の最小が
X「ということは、”
A「ペル方程式?」
X「さっき出てきたこの式のことだ」
X「この
M「
D「それで、
X「今思いつくのは
を満たす自然数 に対して、 より、 は偶数、つまり も偶数である。
このとき、は の倍数なので、両辺を で割ると は偶数である。つまり、 も偶数である。
以上より、の解 はどちらも の倍数である。 とすると、 が の倍数なので、 も の倍数となる。これは が互いに素である、という条件に矛盾する。
A「ということは…差の最小が
X「そうなる…はずだ。もう少しちゃんと検討したいが。
ただ、正直言うと俺が現時点で分かるのはこのくらいだ。たとえば、
といって、上を見上げながら計算をし始めました。
X「
A「す、すごい…暗算してる」
X「…どうも見つからないな。もしかしたら解が存在しないのかもしれないが、こういう方程式の整数解は大きな数になることもあるから、なんとも言えないな」
A「自然数の解が存在しないことってあるの?」
X「たとえば、有名な話だと
M「一方で、
A「数字が変わるだけで、解が存在したりしなかったりするんだ!おもしろ~い!」
M「この辺りは、
と言いながら、真理はニヤリと笑っていました。
X「若干スッキリしない言い方になるが、このような予想が立てられる」
\begin{itemize}
\item{} の互いに素な自然数解 が存在するとき、差の最小が となる原始ピタゴラス数が存在する。
\end{itemize}
X「もし、上の方程式を満たす互いに素な
このとき、
M「
X「
\begin{itemize}
\item{} の互いに素な自然数解 ( は奇数)が存在するとき、差の最小が となる原始ピタゴラス数が存在する。
\end{itemize}
X「この仮定の下なら、互いに素かつ偶奇が異なる
について より となれば、 は差の最小が となる原始ピタゴラス数である。
X「もし、解が無数に存在するなら、この条件を満たすような
M「…思った以上に、深いところに入ったわね」
A「ホントだね~…中学校で習った三平方の定理から、まさかここまで色んなことが見つかるとは思わなかった!」
D「差の最小が
X「整数論の問題は”簡単な”問題でありながら深いところまで考えられるのが面白いところだ。故に、『整数論は数学の女王』と言われたこともある」
M「ガウスの言葉ね」
D「この先はどうなるんだ…?」
M「そこが気になるなんて…ディーもだいぶ数学に興味を持ってきたわね」
D「まぁ、ここで色々やったらな…」
X「この先は本当に数学の専門の分野になる。単数とかその辺りだったか…」
M「次は是非、そこまで行きたいわね」
D「できれば、具体的な例をたくさん出してくれると助かるぜ」
あとがき
というわけで、以上で『原始ピタゴラス数』に纏わる森の冒険は終わりになります。
最初にも書きましたように、最初は『日曜数学 Advent Calendar 2020』の第十三日目の記事としてこちらを書く予定でした。
実際には、その日にはフェルマーの最終定理の説明とかで終わってしまい、その次で問題篇、年をまたいで続編となりました。
この物語は、数学が専門でない(興味はあるけど、得意でない/苦手)な人(ディーやアキみたいな)に向けて、専門の人(真理や数正みたいな)がしている数学を説明するところが大事です。その過程で数学をやっている人がどのように考えていて、どのように問題を解くのか、が色々見つかったり、時に深い問題に出会う、そんな物語です。
今回の場合、当初考えていたのは
ところが、書いている途中で
ちなみに、最後の
この方程式を
の世界、つまり『 で割った余り』に着目して考える。すると、
となる。さらになので、
となる。ところで、任意の自然数に対して を で割った余りは か にしかならないので、
である。以上より、が自然数解を持つとすると、 はどちらも の倍数である。これは が互いに素であることに矛盾する。
以上よりの互いに素である自然数解は存在しない。
ということで、課題を書いて終わりにします。
(1)
(2)
(3)
いずれも、知られていないことではないはずですが、ちゃんと勉強しなければなりませんね。
この記事を書いたブロガー
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「素直に、深く、面白く」がモットーの摂理男子。霊肉ともに生粋の道産子。30代になりました。目指せ数学者。数学というフィールドを中心に教育界隈で色々しています。
軽度の発達障害(ADHD・PD)&HSP傾向あり。
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