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【数学小説】真理の森の数学セミナー~積分編④~


<1/28編集 一部セリフを変えました>
<1/31編集 スマホに合わせて一部数式のサイズを変更しました。何故か数式の最後に番号が付いていますが、これについては現在解決策を検索中です…。
また、一部数式を訂正しました>

真理が計算を始めた一方、数正、アキ、ディーの三人は先程の「部分積分法」について、いくつかの例で計算していました。

「…なぁ、これって(x-\alpha)(x-\beta)のときでも\frac{1}{6}公式の場合は結構簡単になったけど、その他の場合だとあんまり意味ないんじゃないか?」

と、ディーが言っています。彼の計算を見てみると

    \begin{eqnarray*} &&\int_1^2x(x-3)dx\\ &=&\left[\frac{1}{2}x^2(x-3)\right]_1^2-\int_1^2\frac{1}{2}x^2dx\\ &=&\frac{1}{2}(-4-(-2))-\left[\frac{1}{6}x^3\right]_1^2\\ &=&-1-\frac{1}{6}(8-1)\\ &=&-\frac{13}{6} \end{eqnarray*}

となっています。

「まぁちょっとは計算が楽になったけどよ、それでもさっきほどじゃない感じがするぜ」

「確かにな。
少なくとも数学Ⅱまでで出る範囲の積分計算だと、展開してから積分したほうが結果として簡単になることが意外と多い。
部分積分法が真価を発揮するのは”指数関数”や”対数関数”、”三角関数”の積分だ」

「そうなんだ?どうりで学校で習ったことないと思った…」

数正の言葉を聞いて納得した様子のアキ。

「文系だと数学はやってもⅡまでだからな…。
さっき例に出したxe^xが好例で、さっき紹介した本でもこの計算がされていた。
“指数関数y=e^xは微分しても変化しない”というのが重要で、e^xが出たらこれを積分すればいい」

「どうして…あ、ちょっと待って!今考えてみる!」

一瞬数正に質問しようとしたアキですが、何か閃いたようで少しの間考えていました。

「…指数関数が微分しても変わらない、ということは”積分したものも指数関数”ってこと?」

「正解。
y=e^xの微分は(e^x)'=e^xとなることから、原始関数は

    \[e^x+C\]

となる」

「あー、変わらないからそれで積分してしまえばもう一つは微分するから簡単になるんだね」

「簡単になるとは限らないが、多項式だったら微分すると次数が減るから…」

「次数って、2次関数とか3次関数とかの数字のことだっけ?」

「そうだ。次数が減れば積分計算は楽になる」

「三角関数とかはどうなるんだ?」

「三角関数\sin x,\ \cos xは二回微分すると-1倍される」

「えーっと…」

数正の話を聞いてノートに計算するアキ。

「確か、(\sin x)'=\cos x,\ (\cos x)'=-\sin xだから…」

    \[(\sin x)''=(\cos x)'=-\sin x,\]

    \[(\cos x)''=(-\sin x)'=-\cos x\]

「うん、確かに数正くんの言ったとおりだ!」

「だから、これを使っていくとうまくいく場合が多い。
もっとも、実際に出来るかは問題次第だが」

「それって見極めるコツとかあるのかな…?」

「…そうだな」

しばし数正は考えて、それから答えました。

「たくさん計算することが大前提だが、計算する時に”式の形”や”計算する動作”を意識するといい。どの順番に計算した、とか何を使った、とかだ。
これを意識しながら計算すると似たようなパターンが出たときに”見たことがある”と気づきやすくなる」

「”式の形”なぁ…今日、この単語よく聞くぜ」

「そもそも、数学というのは”パターン”なんだ。
同じような計算をまとめて表現したのが変数を用いた数式だし、よく出る計算が公式になる。
そうであるなら、式そのものを覚えるのでなく”どのような計算であるか”を理解するのが本質。
俺はそれを”式の形”という言葉で表現している」

「なるほどね…」

ディーが数正の言葉を考えながら、かつてこのサークルでしてきた活動を思い返していました。
アキもつられてしばし思考に耽っていたのですが…。

「あれ?」

黒板の式を幾つか見ながら何か気がついたようです。

「…どうした?」

「…ん~…」

数正が呼びかけますが、アキはうまく言葉に出来ないようでしばし悩んでいました。

「…あのね、さっきの”部分積分法”…だったっけ…あの計算って最初に”片方の関数を積分”するんだったよね?」

「そうだ。それが大事なポイントの一つ…」

「さっき指数関数の積分を書いてくれたときに思い出したんだけど、積分した原始関数ってCって付くんだったよね?」

「ああ、積分定数だな。確かにそうだ。
定数を微分すると0になるから、積分には定数の不定性がある。それをf(x)+Cと書くんだ」

「…うん。ちょっと難しい言葉があったけど、そうだよね…」

その言葉を聞いて、ちょっとずつ気になったことを言葉にしていくアキ。

「さっきの部分積分法って最初の積分した関数が”f(x)“ってなってたけど、もしかしてこれって”f(x)+C“じゃないのかな?」

「え?」

アキの言葉に驚くディー。

「積分した原始関数ってf(x)だけじゃなくてf(x)+1とかもあるんだよね?それだったら、どうしてf(x)なの?
f(x)+1とかだったら計算結果が変わっちゃったりしないかな…?」

「…」

アキの言葉に数正もしばし考え込みました。

「…それは考えたことがなかった。
俺は積の微分の逆として”積分する”という風に考えていたから、当たり前のようにf(x)としていた。
しかし、アキの言う通り積分の定数の不定性を考えると…」

「ごめん…不定性っていう言葉は難しいな…」

「あ、すまない。積分定数が出てくるという話だったな。…」

「…そういや、実際に計算する時も”微分してf(x)になる関数”を使うんだったな。
それの定数が0とは限らないし、それってどうして分かるんだろうなぁ…」

しばし沈黙の時が流れます。

「…実際に計算してみよう。
f(x)f(x)+Cとすると…」

そうつぶやきながら、数正は黒板で計算を始めました。

    \begin{eqnarray*} {\footnotesize  &&\int_\alpha^\beta f'(x)g(x)dx\\ &=&\left[(f(x)+C)g(x)\right]_\alpha^\beta-\int_\alpha^\beta (f(x)+C)g'(x)dx\\ &=&\left[f(x)g(x)+Cg(x)\right]_\alpha^\beta-\int_\alpha^\beta (f(x)g'(x)+Cg'(x))dx\\ &=&\left[f(x)g(x)\right]_\alpha^\beta+\left[Cg(x)\right]_\alpha^\beta-\int_\alpha^\beta f(x)g'(x)dx-\int_\alpha^\beta Cg'(x)dx} \end{eqnarray*}

「…あっ、最後の式って…」

「そうか、ここが消えるのか」

    \begin{eqnarray*}{\footnotesize &&\left[f(x)g(x)\right]_\alpha^\beta+\left[Cg(x)\right]_\alpha^\beta-\int_\alpha^\beta f(x)g'(x)dx-\int_\alpha^\beta Cg'(x)dx\\ &=&\left[f(x)g(x)\right]_\alpha^\beta+\left[Cg(x)\right]_\alpha^\beta-\int_\alpha^\beta f(x)g'(x)dx-\left[Cg(x)\right]_\alpha^\beta\\ &=&\left[f(x)g(x)\right]_\alpha^\beta-\int_\alpha^\beta f(x)g'(x)dx} \end{eqnarray*}

「さっきディーが指摘していた”二つ目は積分したまま”というのが効いていたんだ。
f(x)+Cのままg(x)を微分したから、ちょうどCg(x)が出てきて消える」

「なるほど…いや、上手く出来てんなぁ」

この式変形を見ながら、ディーも感心していました。

「ということで、積分定数に依らず計算が出来ることが示された」

「…だから、Cがなくても大丈夫ってわけなんだね!
なるほどなぁ…」

アキも理解して、それから一言つぶやきました。

「…ちょっと意味のない質問だったね…」

「そんなことはない」

「えっ?」

アキのその言葉を強く数正は否定しました。

「一見意味のないような質問だが、そういう細かいところに気づいて考えるのはとても大事だし、気づけるのは一つの才能だ。
実際、俺もこの質問にすぐには答えられなかった。考えたことがなかったからだ」

「なんか…数正くんにそう言われるととっても嬉しいな!」

とアキは笑顔で返しました。

「それに、実際計算をするときにも”積分定数は自由に取っていい”ということが使える」

「そうなの!?」

「次の積分を考えてみよう」

と、数正は新しい数式を書き始めました。

    \[\int_2^3 2x\log(x-1)dx\]

「これは対数関数との積の微分だから、部分積分法を使って計算するのが王道だ。
この際、積分するのは多項式の方だ。それは」

    \[(\log(x-1))'=\frac{1}{x-1}\]

「と、対数関数の微分が多項式の逆数になって次数を減らせるからだ」

「実際に計算してみると…まず2xの原始関数はx^2だから…」

といって、アキはノートに計算を始めました。

    \begin{eqnarray*} &&\int_2^3 2x\log(x-1)dx\\ &=&\left[x^2\log(x-1)\right]_2^3-\int_2^3x^2\frac{1}{x-1}dx\\ &=&\cdots \end{eqnarray*}

「…最後の積分が分数になっちゃった。これってどう計算するの?」

「こういうときは、x^2に適当な数を加えて約分できるようにする。
このような感じで」

    \begin{eqnarray*}{\footnotesize &&\int_2^3 2x\log(x-1)dx\\ &=&\left[x^2\log(x-1)\right]_2^3-\int_2^3x^2\frac{1}{x-1}dx\\ &=&9\log2-0-\int_2^3\frac{x^2-1+1}{x-1}dx\\ &=&9\log2-\int_2^3\frac{x^2-1}{x-1}dx-\int_2^3\frac{1}{x-1}dx\\ &=& 9\log2-\int_2^3\frac{(x+1)(x-1)}{x-1}dx-\int_2^3\frac{1}{x-1}dx\\ &=&9\log2-\int_2^3(x+1)dx-\int_2^3\frac{1}{x-1}dx} \end{eqnarray*}

「あとは、積分を計算する。先程書いた対数関数の微分からx>1のとき\int\frac{1}{x-1}dx=\log(x-1)となることに注意すると…」

    \begin{eqnarray*} &&9\log2-\int_2^3(x+1)dx-\int_2^3\frac{1}{x-1}dx\\ &=&9\log2-\left[\frac{1}{2}x^2+x\right]_2^3-\left[\log(x-1)\right]_2^3\\ &=&9\log2-\frac{1}{2}(9-4)-(3-2)-\log2+0\\ &=&8\log2-\frac{7}{2} \end{eqnarray*}

「となる」

「難しいね…」

「そこで、さっきアキが気づいた話を使ってみる。
“積分した関数の積分定数は自由に取っていい”ということで、x^2x^2-1としてみよう」

    \begin{eqnarray*}{\footnotesize &&\int_2^3 2x\log(x-1)dx\\ &=&\left[(x^2-1)\log(x-1)\right]_2^3-\int_2^3(x^2-1)\frac{1}{x-1}dx\\ &=&\cdots} \end{eqnarray*}

「すると、先程と違って後ろの積分の中身が約分できて簡単になる。先程”適当に足し引きする”ところが省かれたわけだ」

    \begin{eqnarray*}{\footnotesize &&\int_2^3 2x\log(x-1)dx\\ &=&\left[(x^2-1)\log(x-1)\right]_2^3-\int_2^3(x^2-1)\frac{1}{x-1}dx\\ &=&(9-1)\log2-0-\int_2^3(x+1)dx\\ &=&8\log 2-\frac{7}{2}} \end{eqnarray*}

「へぇ~!少し簡単になった!」

「やったこととしては分数関数が出たときに適当に足し算することと変わっていない。
しかし、数式の長さは大幅に減らせた」

「ちょっとすごいね、これ」

「考える苦労はどこでも変わらないが、始めにしっかり考えることで計算することが大幅に減らせる。
こういう工夫も出来るんだ」

「私の気づいたことも活用できるんだね…」

とアキが感慨深けに話していました。

「…なぁ、これって!」

と、そこにディーが話しかけました。
見ると、彼は先程数正が書いた”部分積分法による\frac{1}{6}公式の証明”を見て、あることに気づいた様子でした。

「ん?どうしたの?」

「さっき数正が証明したやつ、(x-\alpha)を”2回”積分しただろ?
そしたら、係数が…」

    \[\frac{1}{2}\times\frac{1}{3}=\frac{1}{6}\]

「ってなるじゃないか!
これって、さっき真理が質問していた”\frac{1}{6}が出て来る理由”なんじゃないか、って気づいたのさ!」

「…なるほど。つまり”2回積分した結果”が\frac{1}{6}ってことか」

「ああ!さらに、部分積分法の結果(x-\beta)がなくなって、(x-\alpha)^3になる。
これで”(\beta-\alpha)^3“の部分も説明できる!」

「すご~い!ディー冴えてるじゃん!」

「へっへ~ん!
なぁ、真理!\frac{1}{6}公式のあれだが…」

と、ディーが気づいたことを真理に話しかけようとしましたが…

「…そっか、ここで放物線の対称性が…
あぁ、なるほど、この部分が…」

真理は、完全に計算に集中していました。
それも、とても嬉しそうに。それはまるで、もうすぐ宝物が見つかるかのようです。

「あ、あの…真理…」

この状態の真理に話し掛けるのは基本無理です。
話し掛けても聞こえませんし、万が一無理に中断させるとかなり不機嫌になってしまいますから…。

「な、なぁ…」

そうは分かっていても、自分の気づいたことを話したいディーは諦めずに話そうとします。
それをどこか可哀想な目で見ている二人。

「ま…」

 

「出来たわ!」

意を決して声を掛けようとした瞬間、真理が突然勢い良く立ち上がりました。
そして、満面の笑みで

\frac{1}{6}公式の本質が、見えた!」

そう宣言しました。
その表情は…真理を知った恍惚に満ちていました。

 

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この記事を書いたブロガー

sato
「素直に、深く、面白く」がモットーの摂理男子。霊肉ともに生粋の道産子。30代まであと一歩。数学者を志す大学院生で、教育系の仕事もしています。
軽度の発達障害(ADHD・PD)&HSP傾向あり。

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