←その1
F父「いや~、おつかれさん!だいぶ大変だっただろう!」
D「いえいえ、このくらい!」
E「あれ?さっき腰が痛いって言いながらやってたのは…」
D「ちょっ、それ言うなって!」
F「アハハハ~!」
かぼちゃ畑の収穫を終えた皆さんはFくんの家で少し休んでいました。
E「…正直大変でした。ずっと中腰だったのでとても腰が痛くなりました。
毎年こうやって収穫しているんですか?」
F父「そうだな。いつも子供たちが来てくれて手伝いをしてくれる。」
D「へぇ~。一体何人来るんですか?」
F父「子どもたちがFを入れて6人。上三人は結婚してて、その家族も来るからもう少し多いかな…」
D「6人…!?」
F「僕は末っ子なんですよ~。」
E「珍しいですね。そんなに兄弟が多いところ、ここ最近では滅多にないですよ。」
F父「そうだな。収穫の時はいつも賑やかで楽しいぞ!」
そういって笑うFくんのお父さん。
D「あれ?あれは…豚?」
と、Dくんが外を見て豚がいることに気づきます。
F父「ああ、うちは豚を放し飼いにしているんだ。あんな狭い豚小屋にいるよりゆったり動けて豚にもストレスにならないだろう。」
E「へぇ…。ちょっと見てきてもいいですか?」
F父「おう!どんどん見てくれ!」
F「僕も一緒に行きます~。」
その光景に興味を持ったEくんがFくんと一緒に豚が放牧されているところに見に行きます。
E「みんなおとなしいね。」
F「そうなんです~。お父さんがいつも管理しているから柵から出ないんですよ~。
もし柵から出そうになったら…」
E「なったら?」
F「お父さんがホウキでバシッと!!」
E「それで出ないんだ?」
F「はい!」
そう言い切られて、何も言葉が出ないEくん。
E「でも、みんな好き好きに動き回っているね。餌を食べる豚、寝っころがる豚…あそこ、ケンカしてる!」
F「大丈夫ですよ~。いつものことなんです~。」
E「そうなんだ…。あれ?」
牧場を見渡す中でEくんはある豚に目が行きます。
E「あの豚…僕たちをじっと見ているような…。」
F「あ、あの豚ですか~?あの豚はちょっとお兄さんなんですよ~。」
F父「あいつはとってもいい豚なんだよな。だから、種付け用に飼っているんだ。」
二人のところにお父さんが来て、話します。
E「へぇ…。」
その話を聞いて、Eくんはその豚に注目します…。
——————————
豚平「豚助さん、さっきからじっと何を見ているんですか?」
豚助「…ブヒッ。見ろよ。あそこにいるのは、うちの飼い主の息子さんだ。」
豚平「飼い主さんもいますね。でも、それがどうしたんですか?」
豚助「…何でもない。」
豚助、と呼ばれる豚はこのF家で長く飼われています。
豚助「なぁ、豚平。お前は最近ここに来たから何もわかっていないだろうが…」
豚平「?」
豚助「俺はずっとここにいて、見てきているんだ。多くの豚が来て、ここでそれなりに楽に暮らしているのを。あいつらはそれぞれ色々な思いを持って生きていた。…豚なりにな。
豚平、お前はここに来て何か望みはあるか?」
豚平「ブー…。僕は、今の豚生(豚の生き方の意)がいいですね。だって、ゆっくりできるし、自由に動けるし、エサも与えられて…のんびりできていいですね。」
豚助「ブヒッ…幸せな奴だな。
お前のような奴もいたし、もっと自由に広々と生きることを願っていたやつもいた。
あるやつは、かわいい雌豚と種付けすることを望みに生きていた。ある奴はもっといいエサを求めていたっけなぁ。」
豚平「ブー。みんなそれぞれなんですね。」
豚助「だがな…ある時、みんな必ず飼い主に連れて行かれる。それはなんでかわかるか?」
豚平「ブー…。」
豚平は豚なりに考えてみますが、
豚平「飼い主さんの気分、ですかね?」
豚助「…ブヒッ。」
よくわかりませんでした。
豚平「そんな笑わなくても…ブー。
あ、じゃあ、豚助さんは何を望んでいるのですか?」
豚助「俺はな…もっと太ることを願っている。もっと太って、もっと運動して、いい肉をつけることを、な。」
豚平「?どうしてですか?」
豚助「…ゆっくり考えな。」
豚平「…ブー。」
豚平は頭に疑問符を浮かべながら豚助のあとを立ち去ります。
豚助は彼を見ることなく、ひたすらEくんの方を見ながら一人話します。
豚助「いいか…。俺は知ってるんだ。どうして俺たちが飼われているのか。
俺たちは…殺されて、肉となって人間に食べられるために飼われているんだ。」
その言葉はEくんに語るかのように。
もっとも、Eくんにはただ「ブヒブヒ」鳴いているようにしか聞こえませんが…。
豚助「はじめにこのことを悟った時…俺は絶望した。
俺たちは殺されるために生まれてきたんだぜ…。どんなにエサを食べても、どんなに寝ても、楽な生活をしても、最後には…死ぬんだ。それなのに、何の希望を持てというんだ。」
悲しいことを言ってる豚助。しかし、そこには悲壮感はありません。
豚助「豚吉も、豚三も、皆のんきに過ごしてたな。
最後に屠られていくために連れて来られるときも…「やっと自由になれる!」とか「ついに…ついに…豚子との種付けが…!」とか言って…何も知らずにな。」
かつていた豚たちのことを回想する豚助。
豚助「でも、あいつらを笑えなかった。
あいつら何も知らないで…と思っていたけど、俺だって何も変わらない。死ぬことには、何の変わりもないんだ…と思うと、笑うことはできなかった。」
——————————-
E「…あの豚…さっきから僕に何か伝えようとしている?」
F父「そんなことあるわけない!やつらは豚だぞ?そんなことを考える頭はない。」
F「…そうだね。」
F父「俺は戻るぞ。二人とも、もう少ししたら収穫の続きするから戻ってきてくれな。」
そういって戻るお父さん。それを見送りながら、Fくんが口を開きます。
F「Eさん…お父さんは神様のことをよく知らないんです。
だから、さっきは何も言えませんでしたけど~…僕には何かメッセージを感じるんです。
神様からのメッセージが。」
——————————
豚助「だがな…ある時、気づいたんだ。
俺は…何のために生きてるのか?自分のためではなく、人間のために生きているんだって。
俺たちは死ぬけど、ただ死ぬんじゃない。俺たちの肉は加工されて、人間たちに食べられ、生きる糧になるんだってな。」
そういう豚助はどこか誇らしげでした。
豚助「俺たちが健康に生きて、たくさんエサを食べて太って、いい肉をつければ…いつかは人間に食べられる。そして、人間たちの喜びになるんだ。
もちろん、豚だけのことを考えれば、それに何の意味があるのか?って思うだろう。だがな…俺は俺の為に生きることを捨てて、人間のために生きようと考えを変えた。そしたら…絶望しかなかった俺の人生、いや豚生が希望に満ち溢れるようになった!」
豚平「…ブー。豚助さんいったいさっきから何を鳴いているんだろう?あんなに楽しそう…」
豚助「…皮肉なものだブ。俺がそう決心してから今まで、俺は屠られなかった。
こんなに食べられることを望んでいる俺が、種付け用に生かされるようになった。他の奴はもっと生きようと望んで屠られたのにな…。それなら、俺たちの運命を知った俺にできることは…。」
——————————-
F「Eさん…わかりましたか~?あの豚さんからのメッセージ。」
E「いや…まだだね。」
家まで戻る間、二人は先ほどの豚から感じた「何か」について話し合いました。
E「ただ、あの豚は他の豚とはなんか違う気がしたな。
どこか…誇りを持って生きている、という感じがした。」
F「そうなんです~。
あの豚さんはずっと暴れることもなく、おとなしくてエサを食べることもそこまで積極的でなかったんです。」
E「豚にも…個性があるのかな?」
F「でも…ある時から、彼と一緒にいた豚たちを屠殺場に送ってからしばらくして、彼は積極的にエサを食べて運動もして、肉付きが良くなっていったんです。その時からどこか…楽しそうに生きてるんです。」
E「楽しそうって…豚だよ?どの豚を見ても楽しそうに…」
F「そうなんですけど~…他の豚が何も知らないでのんきに生きているのだとしたら、あの豚さんはどこか、「何かを知っている」かのように生きている、そんな気がするんです。お父さんもそれがわかってかわからずか…彼を種付け用にしている気がするんです~。」
E「「誇り」か…。いったい彼はどうしてそう生きているんだろう?」
D「お、帰ってきた。おーい!」
二人が話し合っている間に、いつの間にか玄関まで来ていました。Dくんが迎えてくれます。
E「あ、D。」
F「ただいまです~!」
D「二人とも何そんなに真剣に話しているんだよ?」
E「それは…」
F父「お、帰ってきたな!さあ、早速収穫の続きをするか!」
D「わかりました!E、さっきの話はあとで教えてくれよ!」
E「うん。わかった。」
F「は~い!」
そして、皆は収穫作業の続きに行きました。
——————————-
豚平「豚助さん…。」
豚助「ブヒッ…どうした?」
豚平「さっきの話…本当ですか?」
豚助「ブヒッ?」
豚平「「僕たちは人間に食べられるために、育てられた」って…ブー。」
豚助「…さっきの独り言、聞いてたんだな。」
豚平「…そっかブー。」
豚助「豚平、お前そんなに気にしてないようだな。」
豚平「いえ、ショックではありますけど…ブー。
でも、なんか…スッキリしたんです。ただなんとなく生きてきたけど、そんな目的があるんだって、知れてよかったです。」
豚助「そうか…。」
どこか安心する豚助。
豚平「なんか、よかったです。
僕、今までちゃんとご飯食べてて、走り回っていたから肉付きもいいし…」
豚助「確かに…いい筋肉だな。」
豚平「これなら…」
二人が対話していると、そこに…
——————————-
F父「せっかくみんな手伝ってくれたし、今日は豚を一頭ご馳走しよう!
お、この豚、とっても肉付きがいいな!よし、こいつにしよう!」
——————————-
豚平「あ、どうやら…お別れのようですね。」
豚助「あぁ…よかったな。」
豚平「豚助さん!僕、よかったです!最後に僕たちの生きる目的を知れて!
僕は今…希望でいっぱいです!」
豚助「そうか!
立派に食べられて、人間たちに喜ばれて来いブ!」
豚平「ブー!!」
——————————-
F父「こいつら…互いに鳴き合って、そんなに仲良かったのか?」
二頭の対話など露知らず、Fくんのお父さんは豚を連れていきます。
Dくんたちにご馳走するために…。
——————————-
F父「みんなお疲れさん!今日は手伝ってくれてありがとうな!」
D「いえいえ!楽しかったです!」
E「とても貴重な経験をさせていただきました。」
F父「せっかくみんな手伝ってくれたから、今日はご馳走してあげよう!
獲れたての野菜と果物、そして新鮮な豚肉を使った料理たちだ!」
F「わ~!おいしそ~!お母さんありがと~!」
食卓には色とりどりのご馳走が。
E「あれ?この豚…」
と、Eくんは真ん中にある豚の頭を見て
E「笑ってる?」
F父「屠る時にな、筋肉が収縮して笑っているように見えることがあるんだ。縁起がいいんだ!」
E「そうなんですか。面白いですね!」
D「へぇー。こいつ、いい笑顔してんなぁ。さぞかし、肉もおいしいんだろうな…。」
もはや目の前の食事を食べることにしか目がないDくん。
E「…F。さっきの話だけど…もしかしたら、何となくわかった気がする。神様からのメッセージ。」
F「わかったんですか~!?」
一方、EくんはFくんとさっきの「豚を通してのメッセージ」について話していました。
E「この豚、さっきの豚?」
F「違うと思います~。顔がちょっと若いですし…たぶんあの豚さんは簡単に屠りはしないと思います。」
E「そう…この豚、どこか「自分の肉を食べてくれることを幸せに思って」いる気がするんだよね。」
F「…僕も、そう思いました。Dさんも言ってたけど、この笑顔を見るともっとおいしそうに見えます。」
E「この豚たちのように…僕たちも生きる目的をわかって受け入れたら、ずっと喜びで生きられる、そんな気がするんだ。」
F「あ~!なるほど~!!」
F父「おい、二人ともそんなに何を話しているんだ?」
D「はやく食べよ~ぜ!!」
盛り上がる二人をよそに、ご飯を待ちきれない皆さん。
E「あ、すいません。」
F「それじゃ~食べましょ~!」
いただきまーす!
D「うめぇ!この豚肉、とっても旨いです!なんというか、とってもジューシーで…」
F父「うん、この豚はホントに良く育ったなぁ!」
F「おいし~!感謝しま~す!」
E「うん、おいしい。脂がのってて、味が深い。」
豚肉を食べて、そのおいしさで喜ぶみんな。
E「(…あの豚、まるで「俺は自分の生き方に誇りを持ってる。」って言っているようだった。
先生の御言葉を聞いて、創造目的を分かった僕たちも…あのように、誇りを持って生きたいな。)」
Eくんは豚肉を噛みながら、そんな神様のメッセージを受けたのでした。
→その3
この記事を書いたブロガー
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「素直に、深く、面白く」がモットーの摂理男子。霊肉ともに生粋の道産子。30代になりました。目指せ数学者。数学というフィールドを中心に教育界隈で色々しています。
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