宇宙際タイヒミュラー理論入門を読んでみた。その2

おはようございます、satoです。

先週の土日にあったMathPowerであった加藤文元教授の一般向け講演を聞いてIUTへの熱が上がっている私です。
前に一度星裕一郎さんの「宇宙際タイヒミュラー理論入門」を読んで、そこに出てくる用語を少し解説してみました。
それがこちらです。

前回はTate捻り\widehat{\mathbb{Z}}(1)とは何か、という話をしました。
解説論文にはいくつかの定義が書いてあったのですが、その一つ

(標数 0 の) 代数閉体 \Omega に対する \Lambda(\Omega) \overset{\text{def}}{=} \lim_{\leftarrow n}\mu_n(\Omega)
— ここで, n \ge 1に対して, \mu_n(\Omega) \subset\Omegaは, \Omegaの中の1n 乗根のなす群.

を読み解くことを試みました。
\zeta_n\in\mu_n(\Omega)とすると、\zeta_n\Omegaの中の1n 乗根なので、当然\zeta_n^n=1が成り立ちます。
とりあえず代数閉体\Omegaを複素数体\mathbb{C}とすると、\mu_n(\Omega)は「半径が1の円に内接する正n角形の頂点(でそのうちの一つが(1,0)にあるもの)」という事ができます。

で、今日の問題は\lim_{\leftarrow n}\mu_n(\Omega)ってなんぞや?という話です。これは「逆極限」とか「副有限完備化」と呼ばれる操作を施しているのですが、これについてもう少し詳しく読み解いてみましょう。

目次 非表示

逆極限とは

逆極限とは何か、について一般的に説明するのは難しいので、この例について考えていきます。

まず、自然数m,nに対してnmで割り切れるとします。つまり、n=amとします。
この時、\zeta_n\in\mu_n(\Omega)に対して\zeta_n^a\in\mu_m(\Omega)が成り立ちます。実際、(\zeta_n^a)^m=\zeta_n^{am}=\zeta_n^n=1となり、\zeta_n^aは1のm乗根です。

このように、二つの自然数m,nに対してnmで割り切れるとすると、\mu_n(\Omega)\ni\zeta_n\mapsto\zeta_n^a\in\mu_m(\Omega)という関係が出来上がります。そこで、このような関係を持っているものを並べてあげます。
つまり、\zeta_iを1のi乗根として、nmで割り切れるなら\zeta_n^aが1のm乗根となるように(\zeta_2,\zeta_3,\zeta_4,\ldots)を並べていきます。
このように元を作る操作が「逆極限」と呼ばれるものです。

こうすると何が出来るのか…というと。
これは私の推測ですが、\Lambda(\Omega)は円周の点のほとんど全てを含むのではないか、と考えられます。
これについて、次回もう少し説明していきます。

この記事を書いたブロガー

sato
「素直に、深く、面白く」がモットーの摂理男子。霊肉ともに生粋の道産子。30代になりました。目指せ数学者。数学というフィールドを中心に教育界隈で色々しています。
軽度の発達障害(ADHD・PD)&HSP傾向あり。