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abc予想がついに解決!?〜IUT理論の論文がアクセプト〜

abc予想がついに解決!?〜IUT理論の論文がアクセプト〜

おはようございます、satoです。

つい先日、次のニュースが掲載されました。
数学の超難問ABC予想、京大教授が「証明」-日経新聞

以前から話題になり、私も何回か取り上げたことのある望月新一教授による「宇宙際タイヒミュラー理論」の書かれた4編の論文が、ついに専門誌に掲載されることが決定されました。
このことによって、これまで停滞していたabc予想の解決についての議論も新しい次元に至りました。

…といってもですね。
これまで議論が停滞していたとか、今回論文が専門誌に掲載されたことがどういう意味を持つのかとか、その辺りが理解できないと今回のことがどれくらい凄いのかわからないと思われます。
というわけで、今回はその辺りをできるだけ簡潔に書いていきたいと思います。

論文が専門誌に掲載されるまで

ここでは、今回の一連の論文が専門誌に掲載されるのはどういう意味なのか、またどうしてここまで時間がかかったのかについて説明します。

論文が専門誌に掲載されるには、以下のプロセスを経てアクセプト(採用)される必要があります。

・レフェリーと呼ばれる専門家(投稿された論文の分野に詳しい人であることが多い)に論文の査読が依頼される。

・レフェリーは論文を読んで、新規性・有用性・論理に矛盾がないか等を確認する。ギャップがあったり、気になるところがあれば投稿者にコメントを書く。

・コメントを受けた投稿者は、コメントを受けて論文を修正したり追加する。これに意外と時間がかかる。

・これを数回繰り返して、上の要素を満たしたと確認されたらアクセプトされる。

このような感じでしょうか。細かいところは色々ありますが。

私も論文を投稿したことがありますが、コメントには論文に書かれたことについての質問の他、「論文ではAについての結果が書かれているが、より一般的にBではどのようになるか?」等より発展させる質問もありとてもためになります。
このような議論からより論文が良くなる、ということもしばしばです。ただ、合わない時には合わない、ということも…。

また、レフェリーである専門家も研究をしているので、どうしても忙しくて査読するだけの時間が取れない、ということもあります。そのために、コメントが来るまでの時間がかかることも。

その他、専門誌によって求められる方向が違うので、場合によってはコンセプトが合わない(極端な話、数論幾何の論文を応用数学の雑誌に投稿してもアクセプトされないということ)ためにリジェクト、掲載されない、ということもあります。

今回の論文もこのようなプロセスを経て専門誌に掲載されました。
このことは数学的に議論されるに足る内容であり、かつ明らかな矛盾は見られないというところを意味します。

ここで勘違いされやすいのが専門誌に投稿された=論文の内容が正しい」ではないということです。

論文が専門誌に掲載される最も大きなメリットは「論文が多くの人に見られる」ということ、そして「内容に対する保証」です。
しかし、今回のように、論文がインターネットに掲載された場合は前者のメリットは薄いです。だから、今回の掲載のメリットはむしろ後者の「内容の保証」にあります。
つまり、今回の専門誌の掲載の意味は論文の内容に対する一定の保証である、と言えます。

議論にここまでの時間がかかった理由

さて、ここまで専門誌に掲載されることについての解説をしましたが、今回のIUT理論の論文は2012年に投稿されました。今回の決定までには8年近くかかったことになります。ここで気になるのが

どうして掲載が決定されるまでにここまでの時間がかかったのか

です。これについて一言で言うとIUT理論の専門家が少なかったことが原因と考えられます。

今回のIUT理論は今までの数学理論にない手法と新しい用語によって作られています。
この理論を理解するためには基礎となる数学理論(スキーム等)を理解した上で、望月教授がこれまで書いた計1000ページの準備論文を読み、それからこの論文を1〜2年読み解く必要がある、と理解した人は語ります。
そのようにできる人はなかなか限られている気がする、というのが私個人の意見です。が、実際にそのようにした人はこの論文の正しさを実感しているようです。

今までにない手法というのはどういうのか、かなり大雑把、かつ不正確を承知で話しますと…。
現在の数学で主流になっているのは足し算と掛け算が定義された集合(可換環論)の研究で、簡単に言うと「足し算と掛け算を用いてどのようなことが成り立つのか」ということです。足し算と掛け算を用いて図形を研究するのが「代数幾何学」と呼ばれています。
その一方、今回のIUT理論は足し算と掛け算を切り離し図形の対称性を利用して図形や演算を復元し、そのギャップを用いて研究するという話です。
実は、今回のIUT理論についてフィールズ賞を受賞したピーターショルツが「ギャップがある」と主張しているのですが、これは「代数幾何学の理論では成り立たないとされる結果が導かれるから」という話を聞いたことがあります。(これについてはかなり不正確、かつ自分も詳しい内容を把握してないのであくまで参考程度に…)
この辺りの理解の難しさも、今回の掲載決定にまで時間がかかった原因の一助かと思われます。

紹介した記事の中にも書かれていますし、先の論文掲載の話にも書きましたが、今回の論文掲載は「論理の正しさが証明された」ことにはなりません。論文の査読ではあくまで「ギャップがあるか等々」しか確認できません。
実際専門誌に掲載された論文の内容が間違っていた、ということは数学でもあります。

しかし、この専門誌の掲載とサーベイ論文がIUT理論の議論に大きな進展を与えることは確実でしょう。
私も少しでもこの理論を理解できるように、努力してみたいと思います。

この記事を書いたブロガー

sato
「素直に、深く、面白く」がモットーの摂理男子。霊肉ともに生粋の道産子。30代になりました。目指せ数学者。数学というフィールドを中心に教育界隈で色々しています。
軽度の発達障害(ADHD・PD)&HSP傾向あり。

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