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【数学小説】真理の森の数学セミナー~序章②~

【数学小説】真理の森の数学セミナー~序章②~

→序章①

数正がポスターを貼ってから数日後。

「…連絡が来ない」

数正はため息をつきながらそう呟いた。
数日が経過したが、彼が期待したようなことは起こらなかったのである。

「やはり、いきなり見知らぬ人に連絡するのは心理的に難しいか…。しかし、どうしたものか…」

そう言葉にしつつ、彼は対策を色々考えていた。

「…必ずいるはずだ。数学を学びたいという熱い志を持った人が」

-そのために、俺はこの大学に入ったのだから。-

そう、彼は心の内に呟く。

数正は数学を学ぶためにこの大学に入った。この地方では唯一数学を専門的に学べる大学だったから、というのが大きな理由ではある。
しかし、彼は単に学べるだけでなく、共に研鑽し合う仲間を探していた。
自分と同じレベル、あるいはそれ以上の存在を探していた。それは、彼が今まで求めていたけど得られなかった存在でもあった。
今まで出会った、彼と同じくらい数学ができる級友たちは、皆数学以外に強い関心を持つものがあったり、医者などの目指すものがあったのだ。

「ひとまず、どうやったら人を集められるかを調べてみよう」

そう言って、彼はスマホで検索をし始めた。

彼が怪しくないポスターの作り方を検索したり、サークルの人の集め方を検索したり、としばらくの間調べ物をしている途中

~♪

手にあるスマホから、着信音が流れた。
新しいメッセージが届いたことを知らせる通知を見て、数正はそのメッセージを開く。
そこにはこのように書かれていた。

『突然の連絡失礼します。ポスターを見て連絡しました。
「数学が苦手な人でも歓迎」と書かれていたのですが、よろしければもう少し詳しく話を聞かせてもらってもよろしいでしょうか?
連絡先はこちらになります。

教育学部一年・野本→』

「…来た!」

とても丁寧なメールの文面を読みつつ、ようやく来たメールに歓喜する数正。
このメールの文面を見ながらある程度の信頼ができそうだ、と考えた彼はメールに返信をする。

『ご連絡ありがとうございます。
“数学が苦手な人”でも、数学をできるようになりたい、数学に興味のある人なら歓迎です。
分からないところがあれば、教えることも可能です。
よろしければ、一度どこかの教室で直接お話しできればと思います。

理学部一年・岸本』

返信はすぐに返ってきた。

『分かりました!私は以下の時間でしたら大丈夫です…』

その後、日時と場所を相談して、その日のやりとりは終えた。

「ついに来たか!数学が苦手な人、ということだから思ったのとは違うが…。
まぁ、一緒に勉強する仲間がいることが大きい。自分の理解している内容を教えることも勉強の一つ。今から楽しみだ…」

一緒に勉強できる仲間が増えることに期待しながら、喜びを隠せない数正。

「そうだ。せっかくだから、ポスターの文面を更新するか。
先ほど連絡した野本さんに合わせて、他の人も来れるようにしてみよう。連絡するよりはハードルは低そうだ」

そう言って、彼は新たにポスターを作成するのであった。


『数学を勉強する仲間を探しています。
数学が得意な人はもちろん、”数学が苦手な人”、”勉強しないけど興味ある人”も歓迎します。皆で一緒に数学を勉強しませんか?
本日18:30より○○教室で勉強会をします。』

数日後。掲示板には新たなポスターが貼られていた。
その掲示板の前には、

「…へぇ、今日なのね」

あの、長髪の女子学生が立っていた。

「…ふふっ」

期待に満ちたような笑みを浮かべながら。


それからしばらく経ち。

「…」

数正は、セミナーの舞台となる教室で人が来るのを待っていた。
いつもどおり、柄のないシンプルな半袖のポロシャツに、人から指摘されない程度に整えた黒い髪というシンプルな格好である。

現在興味を持っている分野、集合論の基本的な内容が書かれた本を捲り、ノートを使って問題を解く。その姿は、彼の格好と何故か調和していた。
教室に広がるのは、ノートに書き込むペンの音だけという静寂がずっと続くと思われた…

「あのー…」

かに思われたそのとき、一人の、数正とは異なる声が聞こえた。

-来た!-

その声を聞いて、本から目を上げた数正の前には、

「数学を勉強するセミナーって、ここですか?」

明るいショートヘアの、活発そうな女子学生が教室の入口から覗き込んでいた。
きっちりオシャレはしているが、決して過度ではない上品さと清楚さをどこか感じられる、そんな恰好である。

「…はい、そうです」

“まさか、女子が来るとは…!”
そんな驚きを持ちつつ、努めて平静に対応する数正。

「あ、あの!」

そんな数正を見て、彼女は少し大きな声で話し始めた。

「私、メールで連絡した野本と言います!
メールでも書いたのですが、数学が苦手な人でも参加しても良いですか?」

「は、はい。数学を学びたいと思う人ならどんな人でも歓迎します」

その声の大きさに少し驚きながら、数正は応対した。
このとき、数正の内心はとても興奮していた。それは本当に女子が来たから…ではある。
ただし、これは世間一般に言われる「女性と仲良くなれる」というような期待からではない。

数正は常日頃から「数学は全ての人に開かれている」という考えを持っている。
それゆえ、数学を勉強する人が少ないことを残念に思っていた。
特に、女性で数学を勉強する人は本当に少ない。
だからこそ、彼は「数学を勉強したい」という女性がいることに感激していたのであった。

「本当ですか!よかった~」

数正は彼女が参加してくれるという流れだと完全に思い込んでいた。

「あ、ちょっと待っててください!」

だから、そう話して彼女が去って行った時

「…あ」

数正は混乱のあまり、フリーズしていた。

「…」

-俺の話し方が悪かったのか?
-いや、格好が良くなかったか?彼女はとてもオシャレをしていたが…
-俺を見て、ダサいと思ったのか?

しばらく、そのような思考が彼の頭を巡っていた。
数正という数学者とは、あらゆる可能性を考慮してしまう人間なのである。

-ほらほら、早くっ!

-わかった、わかったっての!だから、押さないでくれ!

廊下から先程の女子ともう一人の声がだんだんと聞こえてくる中でも、

-だが、彼女は俺を見て考える素振りはしていなかった。
-まさかとは思うが、からかい目的?
-いや、メールや今のやり取りからはそのような悪意は感じられなかったが…
-だが、人は見た目によらないから…

数正は変わらず思考の渦に飲み込まれていた。
むしろ、どんどん悪い方向に進んでいた。

「お待たせしました!」

「…ったく、いったいなんなんだ」

彼が我に返ったのは、野本と名乗った女子が男子学生を連れてきた時だった。
普段からシンプルな服を好み、髪も最低限しかセットしない数正と違い、ワックスで金色の髪を立たせ、少しカッコを付けたような格好の、一見するとチャラそうな男子である。

「…彼氏ですか?」

ただし、その思考回路は完全に回復したわけではなかったようで、普段なら口にしないような指摘をしてしまっていた。

「あ、違います!ただの幼なじみです!」

女学生は笑いながら数正の指摘を否定する。そして、数正の方に向き直る。

「改めまして!
私は教育学部一年生の野本 亜季って言います!こっちは、ディーって言います」

「いや、ディーってお前…」

「野本さんにディーさんですか、よろしくお願いします。
俺は理学部一年生の岸本 数正です」

「あ、同い年ですし、敬語でなくて良いですよ!
気軽に、アキって呼んでください!」

「分かりまし…分かった。俺のことも数正と呼んで大丈夫だ」

「数正くんですね!覚えました!」

「…待て待て、どうして名前のこと疑問を持たずにあっさり受け入れるんだよ…」

2人のやりとりをずっと眺めていたディーと呼ばれた男子学生は、呆然と呟いていた。
が、その声は2人には届かなかったようで、そのまま話は流れていく。

「で、ですね!
こっちのディーは工学部の一年生なんですけど、数学が苦手で…できればここで教えてほしいなって思って」

「いや、余計なお世話だっての」

アキの話に憮然としながら突っ込むディー。

「もちろん構わないよ。
苦手と感じる数学を勉強したいと思うのはとても良いことだ。
俺も協力する」

「ホントですか!」

「ちょっと待て!なんで参加する流れになってるんだよ!」

あまりに本人を無視した流れに、紛糾するディーであるが、

「じゃあ、数学苦手なままで4年間過ごすの?
工学部って結構計算するし、授業だって必須なものが多かったはずだよね?」

「…それは…」

アキから正論を返されて、言葉が出なかった。

「数学は実際、大学を出た後でも使われている。
特に工学分野では、様々な場面で数式を扱っているな。
それを考えると、今のうちに苦手は克服した方が良いと、俺も思う」

さらに数正も同調する。

「大丈夫だ。数学はやり方さえ分かれば誰でもできるようになる。
ゆっくりで構わない。一緒に勉強しよう」

無論、数正が本来考えていたような専門的な数学は行えないかもしれない。だけど、苦手なままで終わってしまうのはもったいない。
そんな考えで、数正はディーに勧めていた。

「…そうか、だったら、よろしく頼む」

その言葉を聞いて、ディーもひとまず話を聞くことにした。

「で、どこからつまずいたんだ?そこからじっくりと取り組もう」

「早速か。そうだな…」

-この大学に入れる位だ。おそらく極限とか、そのあたりでつまずいたのだろう。
あそこは確かに難しいからな…-

そう、予想していた数正にとって

「分数だ!分数の割り算がよく分かんねぇ」

「…は?」

耳を疑うような言葉が入った。

序章③

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この記事を書いたブロガー

sato
「素直に、深く、面白く」がモットーの摂理男子。霊肉ともに生粋の道産子。30代になりました。目指せ数学者。数学というフィールドを中心に教育界隈で色々しています。
軽度の発達障害(ADHD・PD)&HSP傾向あり。

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