【摂理人が書く物語】クリぼっちのクリスマス

「あー…」

寒さが染み入るような、冷えた冬の日。
真っ青な空を見上げながら、一人の男性がつぶやきました。

「…今日、何をしよう」

男性の言葉に合わせて出てくる白い息が、空の雲のように現れては消え、現れては消え…
かれこれ30分、そのような光景が繰り返されていました。

「…はぁ」

ため息をついた男性。
自分の周りの乏しさを嘆くかのようなため息も、また空に消えていきました。

今日はクリスマス。

「…世間ではカップルがいちゃいちゃしながらイルミネーションを見て、友達とチキン食べながらワイワイ騒いで…って言うけどな」

そのように、過ごしている中。

「…はぁ…」

男性は一人でした。
心なしか、ため息も先程より深くなっている気がします。

「彼女もいねぇ、友達もいるにはいるが、そんなことをするノリじゃねぇ…
もし俺が子供だったら、サンタさんからのプレゼントを待ちながら過ごしてたんだろうが…」

もう、そんな歳ではありませんでした。

「…はぁ、今日何すっかな。
そういえば、クリぼっちのために丸亀製麺が『きよしこの夜なきうどん』って謳って、釜揚げうどん半額で食べれるイベントやってたなぁ…」

クリぼっちのため…とは書いてませんけどね(笑)
ちなみに、その売上は日本赤十字社に寄付されるそうですね。

「…っていっても、あれも夜からだからなぁ…。
どうするんだ、夜までの時間…」

夜6時からですからね。
ちなみに、12/26までのセールなのです!お得ですね!

「…なんだ?」

トボトボと歩いていた男性は、どこからともなく流れてくる…音に気づきました。
いつも聞いているようなJ-POPとは違う、ゆったりとした、どこか神秘的な曲調…その音に導かれるように、男性が視線を移すとそこには…

 

「…教会…あぁ、なるほど、ゴスペルか」

教会ではイエス様の生誕を祝って、賛美歌(ゴスペル)を捧げていました。
その歌声が、男性の耳元に聞こえてきたのでした。

「…」

男性はしばらく教会を眺めていたのですが…

「…まぁ、俺はそこまで信心深くないからねぇ」

そのまま、道を歩いていきました。


「…」

イルミネーションがきらびやかに輝く、街の公園。
デートスポットとなっていたそこには、たくさんの男女の組が。
綺麗な風景を背に互いに愛を囁き合う…そんな風景を眺める人が一人。

「…」

道行く人々をじっと見るその人を、誰一人として気づく人はいません。
道行く人々は彼のことを無視するかのように、一瞥もせずに通り過ぎていきます。

「…はぁ」

その風景をどことなく哀しそうに、寂しそうに眺めながら、彼は歩いていました。
まるで、誰かを待っているかのように…いや、むしろ、誰かが自分のことに気づいてくれることを願っているかのように。しかし、そのような彼の思いに気づく人は誰もいませんでした…。

公園前の通りには家族連れの人もたくさんいました。
これからパーティーをするためなのか、美味しそうなケーキやらチキンやらを持ちながら、楽しそうに笑ってその道を行きました。
そんな光景を…しかし、彼は哀しそうに見ていました。
まるで、「何かが欠けている」ような、その感覚を訴えるかのよう…。
しかし、そのような感じはすぐになくなり、また彼は歩き出しました。…いや、歩き出そうとして

「…あんた、何やってるんだ?」

一人の男性に呼び止められました。


「…はぁ」

遡ること数分前。
先ほどの男性…男性が二人になったので、この人はMさんとしましょう。
Mさんはあれから結局ゲーセンに行ったり、本を立ち読みしていました。

「家にいたら、どうせ
『あんた外にでも行って何かしてきたらどうなの!?そういう友達や彼女くらい…』
って言われるから出てみたが…本当に何もすることがないわ」

心なしか先ほどよりぐったりとしているように見えますが…

「…しかも、行く先行く先カップルばかりで…ホント、疲れるわ…」

そういうことでしたか。

「…なんか今声がしたような気が…」

気のせいです。

「…はぁ。いよいよ俺もおかしくなってきたのかな…。
いや、疲れか…」

どうやら、Mさんはカップルばかりのところに来て疲れていたようです。
ただですら人混みは疲れますが、カップルばかりだとさらに神経を使いますからね…。

「…ここもカップルばかりか、ってそりゃそーだよなぁ。ここ、この街で一番のスポットだって紹介されてんだもんな…」

それなのに、何故かイルミネーションがきらびやかに輝くあの公園に行くのですから、どうしたものやら…

「…いつもなら人がほどほどいて、風景も綺麗で、落ち着くんだけどな」

ベンチに座りながら、一人ごちるMさん。

「はぁ…クリスマスだっていうのに、何やってんだろうな、俺は…
一人で何もしないでブラブラと…」

そんなことを言いながらぼーっと風景を眺めていると…ふと一人の人が目に止まりました。

「何やってんだ、あいつ…あんなところでじっとして」

カップルか親子連ればかりの公園で、ただ一人じっとしている。
それも、苦しそうに…。

「…なんで、誰も気づかないんだ?」

そして、そんな彼のことを誰一人として気づかない、目の前の光景に違和感を感じていました。

「…」

Mさんはいても立ってもいられず…

「…あんた、何やってるんだ?」

彼を呼び止めていました。


※これは丸亀製麺のうどんではありません

丸亀製麺。
色々な人が夜泣きうどんをすすりつつ、身も心も暖かにしています。

「いつからあそこにいたんだ?」

うどんの湯気が立つ中をMさんは彼と一緒に入りました。
どうやら、二人でうどんを食べながら話すようですね。

「…あそこにはそんなにいなかったよ。
私はこの街をずっとあちらこちら巡っていた」

「へぇ…そうなんだ」

ぶらぶら歩くなんて俺と一緒だな、と考えているMさん。

「誰かが私のことを気づくのを、待っていたんだ」

「…そうか」

「…変に思わないのかい?誰かが気づくのを待っているなんて、端から見たら変だろう」

「…まぁ、変っちゃ変だけど、そういう人がいてもいいんじゃないかなって。
ただ…やっぱり今はクリスマスだからさ。みんな目の前の恋人とか家族とか友達とか…チキンとかケーキとかプレゼントとか…そういうところに夢中になって周りなんて見ちゃいない」

手のひらを上に上げながら、呆れているかのような素振りをするMさん。

「見たかよ、さっきの公園。
目の前であんなに近づいて…周りの人を意識してたらできてないって。
みんな、目の前のことで夢中さ」

「そう…皆目の前のことばかりで、クリスマスがどんな日か、誰も考えない。
今も自分のために犠牲になっている方がいるのに…」

冗談のように話したつもりでしたが、彼は真剣に、哀しそうにつぶやいていました。

「…」

それをじっと見るMさん。

「…お金、ないのか?」

「へっ?」

「いや、さっきから何も選ばないから…
よし、分かった!今日は釜揚げうどんおごったる!」

「あ、いやそういうことじゃ…」

「いいんだ。俺は金に困っているわけじゃない。
そもそも釜揚げうどん半額だし、二人分払ってもいつもと変わらないだけさ」

そういって、Mさんは釜揚げうどん二人分の値段を払ってしまいました。
ついでにMさんは天ぷらも頼みました。彼にも天ぷらを食べるか聞きましたが、彼は遠慮しました。

「ありがとう…それではいただきます」

席につき、うどんをすする二人。

「いやぁ、美味しいね。
こういう寒い日には、やっぱりうどんが…」

「イエス・キリストのことかい?」

「…えっ?」

「さっきの話。
自分のために犠牲になった方、っていうのは、イエス・キリストのことなんじゃないか?」

 

「…よく知っているね。
日本人はあんまりクリスマスの起源を知らないものだと思っていたけど…」

「少しの間、教会にいたもんでね。
よく言われたよ。
『クリスマスは、私達を救いに来られたイエス・キリストの生誕を祝う日です』って」

「そう、イエス様は私達を救うために地上に来られたんだ」

「御言葉を持って、すべての人の霊的な問題、心の問題を解くために…」

おや?

「だけど、ユダヤ教の人々はそれに気づかなかった。
預言通りに彼は来たけど、ユダヤ教の指導者は一部の預言しか見ないで判断した」

エジプトについての託宣。
見よ、主は速い雲に乗って、エジプトに来られる。
エジプトのもろもろの偶像は、み前に震えおののき、
エジプトびとの心は彼らのうちに溶け去る。-イザヤ書19章1節

「自分たちの国防の問題を解決するための救い主…それしか考えてなかったんだ。
そして、彼の御言葉でなく身なり、身分、そして接する人を見て、キリストでないって考え、異端者として十字架に架けた」

Mさん、ずいぶんと話しますね。
彼もびっくりしています。

「それでも、イエス・キリストは最後まですべての人の罪を許し、その罪を負って十字架に架かった。
それで…」

と、長く話したところで、Mさんは我に返って彼を見ていました。

「すべての人が救われる、道を作った」

彼は、Mさんの言葉の続きを話して、それから尋ねました。

「ずいぶんと長く話したね」

「…あぁ、済まない。
思わず教会にいた時の話を思い出して、色々と喋ってしまった」

「教会でその話を聞いたの?」

「そうだな。教会にいた時にはこういう話を聞いて、『だから、イエス様の生誕を祝いましょう』ってクリスマスの礼拝を捧げていたんだ」

「…そうなんだ」

そういって、二人は再びうどんをすすりました。

「…もしかして、お前がさっき皆を見つめていたのも…」

「そうだね。イエス様が犠牲になって救われて、今も生きているのにそのことを忘れている人たちを見ていると…
なんか、哀しくなってね。誰かに気づいて欲しかったんだ」

「…そうか」

「それに、今も…」

「?」

「今もそのように犠牲になっている方がいる。
皆のために祈り、条件を立てて生かせるように、救いの道を開いている、そういう人がいる」

「…」

彼の話をじっと聞いているMさん。

「…なんか、お前の話を聞いていると前に行っていた教会の牧師さんのことを思い出すわ」

「…?」

「その牧師さんは、イエス様が十字架に架けられた時『もっと御言葉を伝えて救いの歴史を広げたかった』という心情を受けてさ。
イエス様の体になって人生を生きようって決心したんだ。
そして、御言葉を実際に行なって、本当にイエス様の愛が実在する、イエス様がこのようにあなたを愛してるんだ、って皆に伝えたのさ…」

「…」

うどんをすする、しばしの沈黙。

「君は、その話を聞いてどう思ったんだい?」

「…実際、すごいと思ったさ。
御言葉を聞いてて本当に神様の愛が感じられたし、本当にその人は…」

…話しながら、うまく言葉にできない様子のMさん。
それを見ながら、

「…君はどうして、教会に行かなくなったの?」

彼はそう尋ねました。
それに、少し悩む様子を見せるMさん。

「…俺は、そこまで信心深くないからね」

若干自嘲するかのようにそう話したMさん。

「…?
そうかな、私にはそう見えないけどね」

「そうかい、お世辞でも嬉しいね」

「お世辞ではない。
御言葉を聞いて、神様の愛を感じた、実感したと話せるのは、本当に体感した人にしかできないこと」

「…」

彼の言葉に図星を突かれたかのように、しばし天を仰ぐMさん。

「…いや。実際、そこまで信心深くないさ。
御言葉で『あぁしなさい』『これはするな』って言われても、正直どうしてか分からないし、行えないし。
それに、そういう疑問を教会の人にぶつけても、調子が悪いだの何だの言われて、祈ったのか、御言葉は読んだのか、聖書は…
そんなこと言われたら、こっちだって行きたくもなくなるわ…」

たまらず、本音を話していました。
たぶん、誰も知らない、誰にも話せない本音を。

「御言葉はいいさ…御言葉を聞いていたら、確かに神様が愛しているんだって感じられる。
だから、何をやってもつまらないのさ」

「?」

「教会を離れてから色々やろうと思ったのさ。
ようやくこれで俺も自由だ、って。でも、何をやってもつまらなかった。
ゲーセン、カラオケ、飲み会…酒は飲まないがね…、それに友達とだべって、何をしても、味気ないのさ」

「…なるほどね」

「でも、それは教会にいても同じ。
教会にいる時はいいさ、神様の愛を感じられるから。
だけど、教会から出て自分の生活に戻ると…やっぱり、味気なかった」

「…」

「なんでだろうね。
教会にいたら、いつも嬉しいはずなのに、いつの間にか苦しくなってたわ」

「…」

Mさんの話を、黙って聞く彼。
うどんは、いつの間にか食べきっていました。

「…君は」

「?」

「君は、色々なことに気を取られてていつの間にか中心を忘れてるみたいだね」

「…中心?」

「君はいったい、どうして教会にいたんだい?」

「…そう言われると、なんでだろうね。
考えたことなかったなぁ…まぁ、楽しかったから?」

「そう、教会に行くと楽しい。
それは神様が君が来ることを喜んでいるからさ」

「神様が?こんな俺を?」

「…今『こんな俺を?』って話してたけど、君は自分の価値をよく分かっていないようだね」

「…いったい、どういうことだ?」

「君が教会に行けば神様が喜ぶ。
それは、神様がそれほどに君を愛しているから。
そして、それを知っているからイエス様は皆を神様に近づけるために全てのことをした。
君は、神様を喜ばせることができる」

「…」

彼の言葉に、しばし沈黙するMさん。

「日本人がよく陥りがちだけど、あの御言葉ができない、この御言葉ができないと考えて自分のことを卑下し、自分のことを価値がないと考えてしまうんだ。
あるいは、この御言葉に価値がないと思うか…君はどうやら前者のようだけどね」

「そうかねぇ…」

「そんななかで人の言葉を聞いてしまうと、心が苦しくなる」

「…まぁ、そうだね。苦しいさ。理解されないってことは」

だから、何となく見捨てておけなかったのさ、お前のことを…
とは話しませんでしたが、そのように考えていたみたいですね。

「君は、優しい人だ」

「優しい?」

「誰も見向きもしなかった私に気づき、共にして、ご飯を食べさせてくれた」

「あー、いや…なんとなくさ」

「そう、なんとなくそれができる。
それくらい君は平素から人に関心を持っている。そして、困った人を放っておけない。優しい人でなければ、なんなんだい?」

「…そこまで言われると、照れるわ」

「そんな君だから、人の言葉を聞いて溜め込んでしまったのだろう?辛いとも言えず、ただただ苦しんで…」

「…」

優しく話す言葉を、ただ黙って聞くMさん。

「一つ」

「…?」

「一つアドバイスをしよう。ご飯のお礼、という訳じゃないけど」

「いやそういうつもりじゃ…」

「これは優しい君への…クリスマスプレゼントということで」

「はぁ…」

呆気に取られつつ話を待つMさん。

「君が今話した本音を、神様に告げれば良い。
人に話すのではなく、神様に」

「…いや、神様が本当に聞いているのかよくわからないし」

「…聞いていると思って、真摯に、切実に話してみなさい。
自分が信じられなくなっていること。
教会に行っても分かってくれないこと。
生活に喜びが感じられないこと。
ありのまま」

「…」

その言葉を黙って聞くMさん。
その心境は…私にも分かりません。

「そろそろ、次のところに行かないと」

「へっ?」

「ごちそうさま。また来るよ」

そういって突然立ち上がり、出口に向かう彼。
慌ててMさんは追っかけます。

「黙っていたのは悪かったっ!
あれは別に…」

「受け入れるのに、時間がかかったのだろう?それは誰でもそうさ。いきなり人のアドバイスを受け入れるのは難しいよ。
私は別に気を悪くしている訳じゃない。むしろ、嬉しいくらいさ」

「はぁ?いったいどう…」

「君が私を、見つけてくれたからね」

そういって、店から出た彼。

「おい、待てって…」

続けてMさんも外に出ますが…

「…いや、どこ行った?
さっきまでそこにいたはずなのに」

彼の姿は見当たりません。

「…いったいなんなんだ、今日は」

頭をかきながら、途方にくれるMさん。
まぁ…色々ありましたからね。

「…あー」

夜空を見上げながら、Mさんは一人つぶやきました。

「…とりあえず、教会に行くか」

その言葉は白い息と共に…神様の耳に聞こえていました。

この記事を書いたブロガー

sato
「素直に、深く、面白く」がモットーの摂理男子。霊肉ともに生粋の道産子。30代になりました。目指せ数学者。数学というフィールドを中心に教育界隈で色々しています。
軽度の発達障害(ADHD・PD)&HSP傾向あり。