これは、みんなが教会に来る前の物語…。
「バカヤロウ!何やってんだ!」
「…すいません。」
「お前この仕事何年やってんだ!こんな初歩的なミス、新入社員でもしねぇぞ!」
「…はい」
ここはとある会社。Aさんはここに勤めて3年半の営業です。しかし、ミスをして課長に怒鳴られています。
「ったく。
ただですら、あいつがいなくなって会社の売上が落ちている上、過労に対する批判の対応に忙しいというのに…!」
ここにはかつて、契約をとる天才と言われたエリートがいました。しかし、彼はあるとき過度の仕事から来る疲労が原因で事故を起こし、亡くなりました。
彼は自らの目的のために仕事をたくさんしていたのですが、彼の事故で「会社の体制」にまで批判が及び、さらに売上が落ちているのです。
そんなわけで…
「あーあ。課長ピリピリしてるときにミスしやがって…。」
「でも、ホントに初歩的なミスよね。あの子何年やってると思ってるのかしら…」
周りからも非難されるAさん。
「…」
Aさんは、それにただ沈黙して耐えるので精一杯でした…。
「はぁ…」
仕事からの帰り道。
「ホントになにやってるんだろう、私…。なんで3年も勤めてるのにこんなこともできないんだろう…」
落ち込むAさん。自分を責め、自暴自棄になりかけます。
「こんな私…会社にいていいのかな…。誰がこんな私を認めてくれるんだろう…」
そして、それが自分の存在に対する疑念に変わります。
「…とりあえず、駅前の本屋行こう」
そんなAさんの気分転換は本屋での立ち読み。別に好きなわけではないのですが、なんとなく「現実と違う世界」に入り込むことで、心の辛さを避けようとしているのでした。
「…どの本読もうかな…」
本屋で立ち読みする本を探そうとうろうろしているAさん。と、そこに…
「おい!うろうろすんな、邪魔くせぇ!」
「あ…すいません…」
本を取ろうとした男性がAさんに怒鳴ってきました。彼も相当イライラしていたのでしょう…。Aさんも運が悪かったですね。
「…もう、イヤ…」
そんな偶然も…Aさんにしてみれば「すべての人が私を嫌ってるんだ…」というくらいのショック。涙目になりながら、本屋をあとにします。
「あら?あれは…Aさんね」
と、そこにIさんが。彼女も駅前に用事があってたまたま来ていたのです。
ちなみに、この二人は少し前に会って以来時々ご飯を食べるようになっていました。
「ご機嫌よう」
「あ…Iさん…」
「(…かなり、落ち込んでるようね。さて、どうしましょう?)」
Iさんが声を掛けますが、Aさんは落胆のあまり、ほとんど反応を示しません。
と、Iさんが周りを見回すと…
「ちょっといいかしら」
「…え…」
Iさんが声をかけるとAさんの反応を待たずに…腕を掴んで。
「あ、あの…」
「あそこのカフェがまだ空いてるわ。そこにしましょう。」
Aさんと一緒に空いているカフェに入りました。
「いらっしゃいませ。」
「Aさんは…ミルクティーでいいかしら。」
「あの…えっと。」
何が何だかわかっていないAさん。
「すいません。ミルクティーとレモンティー一つずつ。」
「かしこまりました。」
「これ、代金ね。」
「え…と…」
「Aさん、とりあえず温かいものを飲んで心を落ち着かせなさい。
今のあなた、正直危ないわ」
「あ…の…」
Iさんの話を聞きながら、財布を取り出すAさん。
「…私の分は出します…」
「…いいわよ。今日は私がおごってあげるわ」
微笑みながらそう話すIさん。Aさんがようやく反応を示したことに安心していました。
「ふぅ…」
ミルクティーを飲んで一息つくAさん。
「どう?少しは落ち着いた?」
微笑みながらAさんに問いかけるIさん。
「あ…すいません。ありがとうございます。
やっと、落ち着きました。」
「頭が回らない時には甘いものを飲むといいわ。糖分も取れるし。」
「へぇ…」
Iさんの話を聞きながら、少し心が楽になるAさん。
「ふふ…。ところで…どうしたの、今日は?」
「え?」
「相当落ち込んでいたわね」
「……」
Iさんの話で、会社でのことを思い出すAさん。
課長の怒鳴り声、周りの非難、本屋でのこと…。
「…うぅっ…」
そのことを思い出したら、あまりにつらくて、泣いてしまいました。
「……うっ…うぅぅ…」
「…」
Iさんも、Aさんが落ち着くまで何も話しません。待つ間、鞄の中を見ながら何かを考えているようですが…。
「…私は…ダメなんです…」
「…え?」
と、突然Aさんが口を開きます。
「いつも…ミスしてばっかりで…。
ずっと会社に勤めているのに、自分の管理もできなければ、書類作成でも初歩的なミスばかり…」
「…えぇ。」
「課長も…私のことでイライラして…周りにも…非難されて…。
私…いないほうがいいって…思います。
本屋に行っても邪魔になってるし…」
今まで会社でうまくいかなかったこと、それで非難されてたこと…たまっていた心の苦しさをIさんに吐き出していました。
「本当は…こんなこと…Iさんには話したくなかったんです…。
Iさんに…迷惑だろうって思って…。でも…」
「…そんなこと、ないわ」
首を振りながらAさんに迷惑に感じていないことを話すIさん。
Aさんは、Iさんにカフェに連れて行かれて、大好きだったミルクティーを飲んで、心からついつらかったことが口に出ていました。一度話すと止まらなくなり、すべてを打ち明けるAさん。
「…私は、あなたに話してほしいと思ったから、ね」
それを狙って、Iさんは少し強引にカフェに駆け込んだのです。
「…!」
その言葉に、また泣いてしまうAさん。
その心づかいが…彼女の冷えた心に染みたのでしょう。
「…ねぇ、Aさん。前に聖書の話をしたの、覚えているかしら?」
「あ…はい。正直よくわからなかったですけど…神様がいるんだ、ってことは覚えています」
「そう。じゃあ…神様とあなたの関係って、何だと思うかしら?」
「え…それは…
考えたことありませんでした。」
少し考えたのち、素直にそう答えるAさん。
すると、Iさんは鞄の中から聖書と…
「これを見て」
二つのハートのキーホルダーを出しました。
「聖書には旧約と新約があるわ。その時代ごとに神様と人間との関係が変わっているの」
「…はい。」
「旧約時代はね…主従関係。人間と神様の間には、こんなにも差があったの」
そう言いながら、テーブルに一つ置き、もう一つのキーホルダーを持って手を上にのばすIさん。
「新約時代は、親子関係。イエス様が来て、そこまで回復した」
テーブルに置いてあったキーホルダーを持ち、上のほうにあるもう一つのキーホルダーに近づけます。
「…それじゃあ、今も神様とは親子関係なんですね?」
「いいえ。…この聖句を見て」
キーホルダーを置いて聖書を開くIさん。
あなたを造られた者はあなたの夫であって、その名は万軍の主。あなたをあがなわれる者は、イスラエルの聖者であって、全地の神ととなえられる。-イザヤ書54章5節
「…夫?父親ではないんですか?」
「そう。本当は神様と私たちは夫婦関係、いや…それ以上の関係なの。このように、ね。」
そういって、二つのキーホルダーを一つにするIさん。
「…へぇ」
「はい」
そのキーホルダーをAさんに差し出すIさん。
「Aさん。これあげるね」
「え?」
「このキーホルダー、一対でしょ?
一つはあなた、もう一つは神様。このキーホルダーのように、いつも神様はあなたと共にいるわ。
これからつらくなったときには、これを見て思い出してね」
そう、このキーホルダーは本当は二つで一つのものだったのです。
「本当はね。神様と私たちは一つ、相思相愛だったのよ。
全知全能な神様があなたの新郎なんだから、大丈夫よ!
人に何を言われても、あなたがどんな失敗をしたとしても、すべて助けてくださるわ。神様より良い新郎はこの世のどこにもいない!」
「あ…ありがとうございます!」
そういって二人は笑い合います。
「…あのときは、Iさんの言ってた意味がよくわからなかったなぁ。でも、なんとなく力を受けて元気が出たっけ。」
それから2年後。Aさんは鞄につけていた一対のハートのキーホルダーを見ながら、あの時のことを思い出します。
「それから御言葉を聞いて、教会にも通って…。
引き上げのことがよくわからなくて、できないと思ってずっと落ち込んでいたっけなぁ。
『こんな私に、神様が共にしてくださるだろうか?』って…」
キーホルダーを手に持ちながら回想するAさん。
「でも…そうじゃなかった。神様はいつでも私に共にしてた。私を助けてくれてた…。
そのおかげで…私は、会社でも頑張れるし、引き上げを目指せる」
キーホルダーを握りしめながら…
「だから…これからも…永遠まで。
私は、あなたと共にいます」
愛の告白をするAさん。その姿は…もう昔のAさんとは別人です。
「あれ?あれは…」
そして、神様の愛は彼女を通して人に伝わるのでした。
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「素直に、深く、面白く」がモットーの摂理男子。霊肉ともに生粋の道産子。30代になりました。目指せ数学者。数学というフィールドを中心に教育界隈で色々しています。
軽度の発達障害(ADHD・PD)&HSP傾向あり。
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